第3章「イメージによる記憶術入門」 B.イメージとイメージを連結する
B.イメージとイメージを連結する3.動作や感情のイメージ化 覚 おじいちゃん、いつになったら記憶術らしいところに入るの? 祖父 う〜む。若いもんはやっぱりせっかちだな。本来ならばこのあと「抽象的な単語のイメージ化」のトレーニングに入るところだが、抽象語は後回しにして「イメージとイメージを連結する」テクニックに入るとするか。 覚 やったー! 祖父 しかし、その前にもう一つ「動作や感情のイメージ化」というダイナミックなやつをやっておくほうが、あとが楽になる。 覚 動作のイメージ化はなんとなくわかるけど、感情も視覚的にイメージできるの? 祖父 そう、動作は文字通り動詞形だから、走る、飛ぶ、泳ぐ、わめく、笑う、転がる…などをそのまま頭に描けばいいんだ。その場合、自分自身が行動してもいいし、目の前でだれかが動作を行っている姿を描いてもよい。難しいことは何もないよね。 ところが感情を表す単語は、寒い、うれしい、くすぐったい、なつかしい、というようなものだけど、そのままでは絵にならない。だからそうした状況を自分で想像し、感情をこめてイメージ化するんだ。 覚 そうか。たとえば最初の「寒い」なら簡単だね。身を縮めて震えている自分を想像すればいいんでしょう。 祖父 さすが私の孫だ。勘がいいぞ。 覚 さすがボクのおじいちゃんだ。おだてるのがうまい。 祖父 気分のいいところで例題に移ろう。やはり1単語3秒以内だ。 例題3 次の動作や感情を表す単語を視覚的にイメージしてください。
覚 これも楽勝かと思ったけど、意外に難しいのがあったよ。 祖父 「求愛」だろう。覚には経験がなさそうだからなあ。 覚 ど、どうしてわかるの? 求愛って告白とは違う感じだし、いちおう小鳥の求愛行動をイメージしたんだけど、自分でも弱いなあって思うんだよね。 祖父 確かにそれでは、小鳥が単に遊んでいるのと区別がつかなくなるかも知れん。西洋風のクサい芝居の求愛場面を思い浮かべたらどうかな。思いっきりオーバーに…。 覚 そうか。それから「難しい」が難しかったよ。これオヤジギャグじゃないからね。 祖父 覚は数学の難問にぶつかったときどうする? 覚 勉強を中止して、ソファに横たわる。 祖父 それじゃ、「難しい」の動作にならんだろう。せめて腕組みでもして、考えるふりだけでもしたらどうだ。
4.自然連想とイメージ連結 祖父 お待ちかねのイメージ連結法という最も初歩的な記憶術に入る前にもう一つ、連想について話しておこう。 たとえば、「節分」という言葉から覚が連想するものを言ってごらん。 覚 鬼は外、福は内、豆まき、赤鬼ってところかな。 祖父 入学式なら? 覚 えーと、小学一年生、ランドセル、サクラ… 祖父 うん、これまでの生活経験が似ていれば、だいたい思いつくことは同じだね。「節分―豆まき」「入学式―ランドセル」というような組み合わせがあるとすれば、前の単語から後の単語が自然に連想されるので、覚えるのが楽で忘れにくい。 ところがだ。たとえば「馬」と「氷」のようにまったく関係ないものを結びつけるとなると、連想では太刀打ちできない。無理やり連想すれば 「馬→馬刺し→冷蔵庫→氷」 とすることもできるが、途中で連想のクサリが別の方向に行ったり、切れてしまったりすることもある。これは記憶術の中でも達人だけが使える特殊な方法だ。 覚 でも、馬から氷にずいぶん早くたどり着けたね。ボクだったら馬刺しが思いつかないから、たとえばえ〜と 「馬、ニンジン、カレーライス、福神漬け……」 って感じで、氷にたどり着く前に眠くなっちゃうかもしれないな。 祖父 惜しい! 馬とカレーライスを結びつけるんだったら、ニンジンを媒介にして覚え方の傑作になるところだった。でも、そう都合よくはいかない。だから自然連想ではなかなか覚えられないということだ。そこで、馬と氷を直接結びつける。イメージ連結法の登場というわけだ。 覚 樋口一葉とたけくらべのときのように、ストーリーを作ればいいの? 祖父 その通り。覚もやってごらん。 覚 簡単だよ。「馬が氷を食べて冷たいと言った」 祖父 擬人化しているのはなかなかいいぞ。でも、馬が何を食べようと動作は同じだろう。馬が何を食べたか、あとでわからなくなる恐れが無キニシモ非ズだな。 ![]() 覚 じゃ、「馬が氷を蹴飛ばして砕いた」はどう? 祖父 覚の頭の中が見えればいいんだが、蹴飛ばされたほうの氷の大きさが問題なんだ。 覚 氷の大きさによって正解か不正解かが決まるの? 祖父 いや、記憶術に絶対的な正解や不正解はないのだよ。ただこの場合、氷は馬と同じくらいの塊をイメージするほうがよい。氷が小さいと印象が弱くなり、忘れる確率が少し高くなる。大きな氷をダイナミックに蹴り砕けば文句なしの満点だ。 覚 少しわかってきたよ。何でもマンガチックに派手派手にやればいいってことね。
5.大事件や珍しい体験は忘れない 祖父 2つの単語のイメージ同士を連結するには、マンガの絵を思い描く要領でストーリーを作ればよい。その根拠となっているのは、「大きな事件や珍しい体験は忘れない」という心理学的な法則だ。 昭和50年に出版された渡辺剛彰という人の記憶術の本の中に、「動物園が火事になってライオンが燃えたことを見た人は、そのことを一生忘れない」というようなたとえ話が載っていたけど、実際に体験しなくても、ダリの「燃えるキリン」という絵を見たら、多分一生忘れないと思うな。つまり、想像上のことでも異常な出来事は忘れにくいということだ。記憶術はこのことを利用しているんだね。 覚 ボクの小さい頃、おじいちゃんがぶら下がった木の枝が折れて、腰を打って寝込んだよね。あの光景は絶対に忘れないよ。それと、そのことでお父さんが「猿も木から落ちる」と言っていたことも。 祖父 親不孝息子め、そんなことを言いおったか! それにことわざの使い方が間違っておる。 覚 まあまあ。ボクも少しあとで正しい意味がわかったし。おじいちゃんの事故のおかげで、ボクは一つ利口になったんだから。 祖父 覚がもっと利口になるためには、もう何回事故にあえばいいんだ?
6.頭の中にしっかりイメージを描こう 祖父 今回はいきなり例題からいくことにしよう。 覚 まだ機嫌が悪いの? 祖父 そういうフリをしているだけだ。二つの単語を「○○が□□をした」というような要領で、できるだけ強い印象のイメージを作ってもらおうかな。 例題4 次の無関係な2つの単語をイメージ連結してください。
覚 ボク、わかっちゃった。1番は「担任の先生がラーメンをすすっている」ではダメ、って言いたいんでしょう? 祖父 そういうところは妙に勘がいいなあ。じゃあ、なぜダメなのか覚に説明してもらおうか。 覚 エヘン。先生がラーメンをすすっても珍しくも何ともない。あとで、ラーメンなのか日本そばなのか、それともうどんなのかわからなくなる恐れがある。 祖父 お見事。ただし、私の口調まで真似しろとは言ってないぞ。 イメージ連結問題は理屈だけでなく、実例を何度もやってみて、試行錯誤を繰り返しながら勘を身につけていくのがいいんだ。だから、5つの問題の左側の単語だけを紙に書いて、右側の単語が思い出せるかをチェックして欲しいんだな。覚えられなかったところは、イメージ作りのやり方のどこが悪かったかをその都度確かめて修正する。 覚 しっかりと覚えられれば、そのイメージが正解になるというわけ? 祖父 そういうことになるな。長期間そのイメージを忘れなければ、他の人から見て弱いイメージに見えようが、その人にとっては正解だ。脳の中身は人それぞれ違うからね。 覚 正解がないといっても、ボクのイメージとおじいちゃんのイメージはどう違うんだろう。 祖父 それでは1番から順に描いたイメージを言葉で言ってごらん。及第点のときは何も言わないから。 最初は「担任の先生」。 ![]() 覚 「担任の先生がラーメンを机にぶちまけた」 「カンガルーが五重塔の屋根に飛び乗った」 「テーブルをスキー場において食事をした」 祖父 3つ目のはちょっと待った。悪くはないけど、「食事」という別の単語が登場してややこしくなっている。スキー場にテーブルがあるのは珍しいけど、ちょっと弱い感じもするんだな。たとえばこんなのはどうだろう。 「テーブルがスキー場をスイスイ滑っている」 ![]() 覚 確かにそのほうがすっきりしていて強いね。次は桃か。ちょっとパクリだけど… 「桃から生まれた招き猫!」 「東京タワーから皿が落ちて割れた」 祖父 最後のも及第点ぎりぎりってところかな。落ちたものの形をよほど頭に焼きつけないと、茶碗や湯飲みと区別がつかなくならないとも限らない。私のイメージは 「東京タワーのてっぺんで皿が回わっている」 というヤツだ。皿の形が消えないし、雄大な光景だろう。 覚 東京タワーに負けないくらい大きな皿をイメージするわけだね。 いま気がついたんだけど、マンガばっかり読んでいるボクよりも、おじいちゃんの頭のほうがずっとマンガチックなんだね。 祖父 それって全然ほめていることにはなっていないぞ。
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