第2章「心理学を応用した12の記憶法」 B.記憶と意識
3.記憶しようという意識をしっかり持つさてここからは心理学を応用した記憶法のお話になります。 まずその第一は「覚えようという意識をしっかり持つ」ということです。「当たりまえじゃないか」と思われるかもしれませんが、本当に覚えようと意識して勉強しているでしょうか? たとえば授業中に漫然と先生の話を聞いていませんか。あるいはしっかり理解しようという気持ちで聞いていても、次にそれを覚えようと意識しましたか? 数学や物理など一部の科目を除けば、理解しただけですぐに覚えられる項目は限られています。その場でしっかりと記憶にとどめようと意識するかしないかでは、復習するにしても大きな違いが生まれます。「あとで覚えよう」では効率が悪いのです。 覚えようと意識するかしないかではっきりと差が生まれるわかりやすい例は、人の顔と名前です。一般に顔は覚えやすく、名前は忘れやすいという性質があります。 しかし、初対面であいさつだけで済ます場合は、うっかりすると顔さえも忘れてしまいます。先方が自分の顔を覚えていてあいさつされた場合などは、困ってしまいますね。よほど特徴のある個性的な顔でない限り、ひと目では覚えられません。しっかりと相手を見て話し、失礼にならない程度にさりげなく観察することも必要でしょう。 名前はさらに厄介です。心の中にその人の名をしっかりと刻み込む努力をしないと、一度では覚えられません。接客の達人の話によると、会話の中に相手の名前を入れるのが覚えるコツだそうです。たとえば、「高山さんは、どちらのご出身ですか?」というような要領です。 実際に会った人でさえ、覚えようと意識しないと忘れてしまうのですから、歴史上の人物や地名などがなかなか覚えられないのは当然です。たとえ授業に集中していても、意識が人名や地名に関係ないところに向いていると、覚えられません。話を聞きながら時々「これとこれは覚えておこう」というように、意識を働かせることが大切です。 道を覚える場合にも同じことがいえます。駅からの道路の方向、線路との位置関係、曲がり角など要所での覚えやすい目印や周囲の風景などを、しっかりと意識して頭に焼きつけることです。何ごとも注意力が大事。覚えることに意識を集中させることです。 4.必死になる動機が集中力を高める「火事場のばか力」という言葉があります。緊急事態になると途方もない力を発揮できることですね。必死になるとふだんの実力以上の力を発揮するということは、スポーツの世界ではよくあります。集中力が潜在能力を引き出すのです。 集中力は訓練によって高めることができますが、それが学習に役立つかどうかは不明です。なぜなら、どんなに集中力がある人でも、嫌いなことには努力してもなかなか集中力が続かないからです。ところが好きなことには、努力しなくても集中できる。時には食事の時間も忘れて没頭する。子供時代にはだれでも経験することです。 この世に「飯より好きなこと」はたくさんあります。スポーツ、ゲーム、マンガ、テレビ、おしゃべり、サイクリング、楽器、絵画、手芸、工作…。それと同じくらいに受験勉強が好きになれればよいわけですが、私には何度生まれ変わってもできるとは思えません。 そこで集中力を高める次の手を考えなくてはなりません。それが「必死になる動機」です。最近はモチベーションという言葉が仕事の場などでよく使われるようになりましたが、どうも小手先の印象があります。やはりここは「モチベーション」ではなく、「必死になる動機」でなくては、潜在的なパワーを引き出すことはできません。 親が行けというから、あるいは周りの人がみんな行くから、高校や大学に進みたい。社会人なら、資格でも取っておこうか。と、こういう人が多いでしょうね。私も子供の頃は同級生とくらべて幼稚でしたから、親にいわれて(数学以外の科目は)仕方なく勉強をしていました。これでは集中力は続かず、勉強時間も少ないので、潜在能力を発揮できるわけがありません。高3の2学期でようやく勉強をする強い動機を持ったことは、第1章の4で述べたところです。 そんなわけで必死の動機に目覚めるためには、心が早く大人になることが先決です。そして自分を見つめることです。何が何でも意中の学校に入るのだという強い思いを心に描いてください。すでに合格圏内にある人は、その上の学校を目指すのもよし。あるいはランクを上げない場合は「トップで合格する」という意気込みで、自分を追い込んでください。常に高い目標を胸に抱いて机に向かう。そこから集中力は生まれます。 ページトップへ 5.理解することは記憶の第一歩理解できないことは覚えづらい。これも当たりまえのことです。数字や記号は意味を表すものではないので覚えづらいのに対して、言葉には意味があるので覚えやすい性質があります。 しかし、同じ言葉でも意味がわからないとどうなるでしょうか。実験してみましょう。次の“文章”をそれぞれ何秒で覚えられるか試してみてください。
まさか、Aのほうが早く覚えられた、というような方はいなかったでしょうね。Aは単語レベルではすべて正しい日本語であり、文法構造的にも間違っていませんが、まったく意味が通りません。このように理解不能の文章は、覚えるのに時間がかかるのです。 上の場合は文章がでたらめだったために理解できなかったわけですが、ちょっと難しい説明文を読むと、頭の中が同じように「???」の状態になることがあります。たとえば、民法11条に次のような文章があります。 「心神耗弱者及ヒ浪費者ハ準禁治産者トシテ之ニ保佐人ヲ附スルコトヲ得」 法律の勉強をしたことのない人が、カタカナ交じりで、濁点も句読点もないこの文章を一度読んだだけで理解したら脱帽です。わかりやすく書き換えてみましょう。 「心神耗弱者および浪費者には、準禁治産者として保佐人をつけることができる」 文章はわかりやすくなりましたが、心神耗弱者と禁治産者の意味がわからないと、本当にわかったことにはなりません。 このように文章の理解には読解力が大いに関係していますが、そのほかに漢字能力、基礎学力、常識力、専門知識などが関係してきます。 小学校時代は単純記憶力がすぐれているので、読み書きや計算などの基礎を習得するのに向いていますが、中学生の頃から機械的な記憶力は衰えてきます。その代わりとなるのが中学・高校時代に伸びていく理解力です。理解力が記憶力を補っているのです。しかし、その理解力は国語力をはじめとする基礎学力によって差が生まれます。 基礎知識がないと理解できない。そして理解力が不足すると記憶できない。これを繰り返すと限りない負の連鎖に陥ります。日本語能力はとりわけ重要です。 ここで理解と記憶を同時に助ける方法として、アンダーラインを引く方法を一つ提案しておきます。ほとんどの方がやっていることだとは思いますが、中には文章のほとんどにラインを引いてしまう方も見かけます。アンダーラインのひき方にも理解力が関係してくるのです。 アンダーラインの基本は重要キーワードのみをマークすることです。上の文章では「心神耗弱者」「準禁治産者」「保佐人」の3つだけにします。カラーは少なくとも4色は用意し、関連する項目は同じ色にするなど、工夫をするとよいでしょう。 6.とはいうものの繰り返し学習は強い理解するだけで自然に覚えてしまうものは、多少あります。しかし、教科のレベルが上がるにつれて、理解しただけでは覚えられないものが多くなります。そこで何度も「覚えようと意識して」覚えることになるわけです。 何度も繰り返して覚えるのは時間がかかります。そこで記憶術が生まれたわけですが、記憶術にも得手不得手があります。記憶術が向いているのは次のような場合です。
つまり、覚える項目が比較的少なく、きちんと整理されていないもので、理解できている項目は、機械的に繰り返して覚えてしまうほうが早いのです。 ここでいう繰り返しは、唱えるというような意味です。しかし、本当の意味の繰り返し学習は、完全に覚えたあと、忘れる前に何度か確認の復習をすることにあります。 この章の最初にエビングハウスの忘却曲線というものが出てきましたが、最も忘却率の高い30分以内(それが無理なら2時間以内)に一度覚えているかどうかの確認をするのが効果的です。そこですでに忘れてしまった項目はもう一度覚えなおし、同じ日にまた確認をします。さらに翌日、3日後、10日後というようなサイクルで反復学習をすると記憶はより強固になります。覚えていることを復習するのはもったいない感じがするかもしれませんが、エビングハウスの忘却曲線を思い出してください。あれとの戦いなのです。 繰り返し学習は、記憶の引き出しから時々出してやることによって、忘れることを防いでいます。反復学習は教科に限らず、スポーツにおいてもきわめて有効な方法です。ただし、時間と根気を必要としますから、自己コントロールの苦手な人は苦痛を味わいます。 遅れを早く取り戻したい方は、繰り返し学習という王道だけを歩まず、記憶術を身につけるとよいでしょう。記憶術を身につけるための時間は、あとで十分取り戻せます。 ページトップへ
Copywrite: Akira Takayama |